ブラジル、サンパウロの北に広がるミナス・ジェライス州――サッカーの強豪クラブチームがあることで有名なこの地で、1944年、カルロス・ファルチは生まれました。
ファルチ家は、祖父の代にイタリアからブラジルに移住しました。彼の精神と創造性は、その歴史が作ったといえます。
20歳の時ニューヨークに渡り、映画産業に携わっていた頃、たまたま衣装小物として手掛けた1本のベルトが『ヘンリー・ベンデル』のオーナーに認められ、服飾デザイナーとしてのスタートをきりました。
「ヘンリー・ベンデル」の服飾小物の製作を手始めに、ショウビジネス界のトップスターであるマイルス・デイビス、ティナ・ターナー、ミック・ジャガー等のステージ衣装デザインを次々と手掛けた彼は、皮革を用いた衣装にヒントを得、皮革の持つ可能性をバッグというアイテムの中に追求し始めたのです。
カルロス・ファルチはバッグのデザインを始めて以来、従来の常識では考えられないヴィヴィッドやペイル・トーンの色使い、巾着型に代表される新しい形の開発、爬虫類、バッファロー等の特色ある皮革の多用、メタリックを使った加工など、彼独自の自由で大胆な発想で、常に他の皮革デザイナーの一歩先を歩いてきました。
カルロス・ファルチのデザインは、彼のルーツであるイタリア、とりわけ古代ローマの建造物や美術品の美しいフォルムと、少年時代を過ごしたブラジルの、リオのカーニバルに代表される鮮やかな色彩が、現在の活動拠点であるニューヨークのテイストと融合し、生み出されていきます。そのハーモニーの妙は、彼の作品に接すると、容易に感じることができます。
カルロス・ファルチは、1970年に創作活動を開始して以来、皮革デザインの可能性に対する数々の新しいアイデアの注入、新しい技法の開発などに取り組んできました。その功績を認められ、1982年、作品の一つがニューヨーク・メトロポリタン美術館の永久展示コレクションに選定されました。
さらに、1983年には、ファッション界に於いて最も名誉のある賞の一つとされる『コティー賞』を授与され、全米アクセサリー協会会長にも推薦されるなど、アメリカを代表するファッションデザイナーとして全世界に広くその名と作品を知られるところとなりました。
『コティー賞』受賞を始め、数々の輝かしい実績を誇るカルロス・ファルチは、実力を互いに認めあえる数多くの友人を持っています。また多くの後輩を育成した実績についても高く評価されています。
例えば、ジュエルーデザイナーのアンジェラ・カミングスやロバート・リー・モーリス、シューズデザイナーのケネス・コール、オプティカルデザイナーのクリスチャン・ロス、アクセサリーデザイナーのキャロライナ・ヘイラ、そして日本では『ルーズソックス』の仕掛人として有名なソックスデザイナーのE・G・スミス等と極めて親しい関係にあります。
指導育成面では、ジル・スチュアートのバッグデザインや、ケイト・スペードの創作活動に対するアドバイザーを務めました。またトッド・オールダムについては、長年カルロス・ファルチのアシスタントを務めた後独立し、今日に至っています。
ファッションデザインの世界に於いて頂点を極めたカルロス・ファルチの交友関係は、ファッションビジネスの世界に留まらず、クリントン前米大統領主催のクリスマスパーティーに毎年招待されています。また全米プロバスケットボール(NBA)ニューヨーク・ニックスのオーナー夫妻とは特に親しく交流を持つなど、その範囲は広く政財界に及びます。